FX の両建てとは、同じ通貨ペアの買いと売りを同時に持つことです。値動きによる損益の変動は止まりますが、すでにある含み損が消えるわけではなく、スプレッドやスワップといったコストが新たにかかります。
含み損を抱えているときに「反対の注文を足せば損は止まる」と聞くと、試したくなるかもしれません。この記事では、仮の数値例を使って、両建てで損益がどう動くのか、どんなコストがかかるのか、証拠金やロスカットはどうなるのかを順に確かめます。あわせて、両建てを解消するときの難しさと、使う前に口座の約款で確認する項目も整理します。
なお、この記事は両建てをすすめるものではなく、損失の回避や利益を保証するものでもありません。数値例はすべて仮のもので、実際の相場や特定の会社の条件を示すものではありません(記載の情報は 2026年10月時点です)。
FXの両建てとは?結論は「損の拡大は止まるが、損失は消えない」

両建てとは、同じ通貨ペアについて、買いの建玉(ポジション)と売りの建玉を同時に持つ状態のことです。たとえば、ドル円を 1 万通貨買って持っている人が、同じドル円を 1 万通貨売りで新たに建てると、両建てになります。
結論を先にまとめると、両建てにすると、その後の値動きによる合計の損益はほとんど動かなくなります。ただし、それは「その時点の含み損が固定される」という意味で、含み損がなくなるわけではありません。さらに、建玉が増えた分だけコストがかかり、いつ外すかという新しい判断も必要になります。
この記事で扱うのは、同じ口座の中で行う両建てです。別々の会社で持つ方法は上級者向けでリスクが大きいため、扱いません。
片建てと両建ての違い
片建ては、ある通貨ペアについて買いか売りのどちらか一方だけを持つ状態です。買いだけなら、レートが上がれば利益、下がれば損失になります。損益は値動きにそのまま連動します。
両建てでは、買いの損益と売りの損益が逆向きに動きます。買いが 1 円分の損をすれば、同じ数量の売りは 1 円分の得をするので、合計では打ち消し合います。この打ち消し合いが、両建てで損益が止まって見える理由です。
両建ては「損失を消す」手法ではない
両建てで止まるのは、これ以降の損益の「変動」です。すでに出ている含み損は、両建てにした時点の金額のまま残ります。
損失が実際に確定するのは、建玉を決済したときです。両建てにしただけでは決済していないので、損失は確定も解消もしておらず、先送りされた状態といえます。この点を押さえておくと、「両建てなら損しない」という言い方が正確でないことが分かります。見出しの「損の拡大は止まる」も、値動きによる損益の変動が止まるという意味です。スプレッドやスワップのコストは増えますし、実預託額が減ればロスカットも起こりえるため、損失が増えないという保証ではありません。
国内の会社が提供する FX は、金融商品取引法上のデリバティブ取引に当たる場合があります(国税庁 No.1521の説明による)。契約前には、会社が取引説明書などでリスクを説明するのが一般的です。両建ての可否や扱いは会社のルールによるため、この書面と約款が確認の出発点になります。決済や損切りの基本は、FX注文方法の基本の記事で解説しています。
両建てで損益はどう動く?仮の数値例で確認

ここでは、仮の数値例で両建ての損益を追います。スプレッドとスワップは、次の節でまとめて扱うため、この節では考えないことにします。
仮の数値例の前提(通貨ペア・数量・建値は仮)
以下の数値はすべて仮のものです。実際の相場や取引結果を示すものではありません。
- 通貨ペア: ドル円に似た設定の仮の通貨ペア
- 買い: 1 万通貨を 150.00 円で建てる(仮)
- レートが 148.50 円まで下がったところで、売り 1 万通貨を 148.50 円で追加して両建てにする(仮)
- 1 万通貨の場合、レートが 1 円動くと損益は 1 万円動く(仮の前提の計算)
損益の計算方法そのものは、FXのpipsと損益計算の記事で確認できます。ここでは「(売値 − 買値)× 数量」という単純な計算で進めます。
両建てにした時点の買い建玉は、150.00 円で買ったものが 148.50 円になっているので、(148.50 − 150.00)× 1 万通貨 = マイナス 15,000 円の含み損です。この 15,000 円が、両建てで固定される金額になります。
レートが動いても合計の損益は動かない
両建てにした後、レートがさらに下がったり、元の水準に戻ったりした場合を比べます。
| その後のレート(仮) | 買い建玉の損益 | 売り建玉の損益 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 147.00 円 | マイナス 30,000 円 | プラス 15,000 円 | マイナス 15,000 円 |
| 148.50 円 | マイナス 15,000 円 | 0 円 | マイナス 15,000 円 |
| 150.00 円 | 0 円 | マイナス 15,000 円 | マイナス 15,000 円 |
| 152.00 円 | プラス 20,000 円 | マイナス 35,000 円 | マイナス 15,000 円 |
どのレートでも、合計はマイナス 15,000 円のままです。レートが元の 150.00 円に戻っても、買い建玉の損益は 0 円になる一方で、売り建玉が 15,000 円の損を抱えるため、合計は改善しません。
つまり両建ては、「このまま下がり続けたら怖い」という不安には対応できますが、「元に戻れば損が消える」という期待には応えられません。
この表はコストを考えない計算です。現実には次の節のコストが上乗せされます。
両建てにかかるコスト|スプレッドとスワップを仮の数値例で試算

両建てで見落としやすいのが、コストです。新たに建玉を持つ分だけスプレッドがかかり、保有している間はスワップの差が積み上がります。
スプレッドは買いにも売りにもかかる
スプレッドは、売値と買値の差のことで、実質的な取引コストになります。通貨ペアによって幅が異なり、相場が急変したときなどには広がることがあります。仕組みの詳細は、FXスプレッドの記事をご覧ください。
両建てでは、売りを追加するたびに、そのスプレッド分のコストが新しく発生します。仮に、スプレッドを 0.5 銭(0.005 円)とすると、1 万通貨の売り建玉を建てて決済するまでに、0.005 円 × 1 万通貨 = 50 円のコストになります(仮)。
1 回あたりの金額は小さくても、建てる、外す、また建てる、と繰り返すほど増えます。スプレッドが広がっているときは、同じ操作でもコストが大きくなります。
スワップは差し引きされても、差額が残ることがある
スワップポイントは、2 つの通貨の金利差から生じる調整金で、持っているポジションによって受け取りになる場合と、支払いになる場合があります。同じ通貨ペアの買いと売りを同時に持つと、受け取りと支払いが差し引きされる形になることが多いとされますが、実際の付与額と徴収額は会社が公表している数値で確認する必要があります。
ただし、買いで受け取るスワップと売りで支払うスワップが同じ額とは限らず、差し引くと支払い側が残る場合があります。その差額が実質的なコストになります。実際の額は、会社が公表しているスワップポイント表で、通貨ペアごと・時期ごとに確認してください。仕組みの詳細は、FXスワップポイントの記事で解説しています。
保有日数が増えるほどコストが積み上がる(仮の数値例)
次の仮の条件で、両建てのまま持ち続けた場合のコストを試算します。
以下の数値は仮のものです。実際のスワップは通貨ペア・会社・時期によって変わります。
- 買い建玉のスワップ: 1 日あたりプラス 80 円(仮)
- 売り建玉のスワップ: 1 日あたりマイナス 100 円(仮)
- 差し引きは 1 日あたりマイナス 20 円(仮)
- スプレッド分: 売り建玉の追加と決済で 50 円(仮、1 回のみ)
| 両建ての保有日数(仮) | スワップの差(累計) | スプレッド分 | コスト合計 |
|---|---|---|---|
| 10 日 | 200 円 | 50 円 | 250 円 |
| 30 日 | 600 円 | 50 円 | 650 円 |
| 60 日 | 1,200 円 | 50 円 | 1,250 円 |
| 90 日 | 1,800 円 | 50 円 | 1,850 円 |
この仮の例では、コストは含み損の 15,000 円に比べれば小さく見えます。しかし、このコストは損失を取り戻す方向には働かず、差し引きがマイナスという仮の前提のもとでは、持っている間は増え続けます。
両建てでも証拠金は必要?ロスカットが起きる場面

両建てにしても、証拠金が不要になるとは限らず、ロスカットの心配がなくなるわけでもありません。
証拠金の計算方式は会社ごとに違う
両建てのときの必要証拠金の計算方法は、会社によって異なります。次のような方式がありえます。
- 売りと買いのうち、数量の大きいほうだけを必要証拠金の対象にする方式
- 売りと買いをそれぞれ計算して、合算する方式など
大切なのは、「自分の口座はどの方式か」を取引ルールで確かめることです。
違いを仮の数値例で見てみます。仮に、1 万通貨あたりの必要証拠金を 60,000 円(取引額の 4% を想定、仮)、口座の資金を 200,000 円、含み損を 15,000 円とします。実預託額は 185,000 円です。
| 計算方式(仮) | 必要証拠金 | 実預託額 ÷ 必要証拠金 |
|---|---|---|
| 大きいほうだけで計算 | 60,000 円 | 約 308% |
| 売りと買いを合算 | 120,000 円 | 約 154% |
同じ両建て、同じ資金でも、方式によって数値が大きく変わります。維持率の計算方法とロスカットの仕組みは、FX証拠金維持率の記事で詳しく解説しています。
ロスカットは両建てでも判定される(判定の単位は会社の規程で確認)
ロスカットとは、損失が膨らみすぎないよう、一定の水準を下回ると強制的に決済される仕組みです。金融先物取引業協会の細則では、実預託額が「必要証拠金額 × ロスカット水準」を下回った場合、会員は直ちにロスカットの手続を行うと定められています(金融先物取引業務取扱規則第25条の3に関する細則、2020年6月17日一部改正)。
両建てにしても、実預託額が「必要証拠金額 × ロスカット水準」を下回れば、ロスカットの対象になりえます。スプレッドやスワップのコストで実預託額は少しずつ減り、ほかのポジションの含み損も実預託額を押し下げます。
ロスカットが行われる場合でも、相場の急変などで、預けた証拠金を上回る損失が出る可能性があります(細則第 4 条第 3 項で、会社はこの旨を事前に説明するものとされています)。
細則では、ロスカット水準を顧客単位で定めるほか、通貨ペアごとなどに分けて定めることもできるとされています。そのため、両建てを含むポジションをどの単位で判定するかは、会社の規程で確認が必要です。
さらに、片方の建玉だけを決済すると、必要証拠金の計算が変わり、維持率も変わります。また、残った建玉が再び単独のポジションになるため、その後の値動きで実預託額が減り、維持率が下がってロスカットに近づくことがあります。
両建てが使われる場面と限界|指標発表前・年またぎ

両建てが使われる場面として、経済指標の発表前と、年をまたぐ期間の 2 つがよく挙がります。どちらも、使えば有利になるという話ではなく、限界を知ったうえで考える必要があります。
指標発表前に一時的に使う場合と注意点
雇用統計のような大きな指標の発表前後は、値動きが急になることがあります。その間だけ、持っているポジションの損益の変動を抑えたいと考えて、両建てにする人がいます。
ただし、指標の前後はスプレッドが広がることがあり、両建てを建てるときも外すときもコストが大きくなることがあります。思ったタイミングで外せず、方針が崩れるおそれもあります。
指標発表前後のリスクについては、FX雇用統計の見方の記事で整理しています。
年またぎで使われると聞くが、税の扱いは確認が必要
「年をまたぐ前に両建てにして、損益を翌年に回す」という説明を見かけることがあります。しかし、両建てと税の関係を国税庁が説明している資料は、調べた範囲では確認できませんでした。そのため、この記事では「両建てで税が有利になる」とは書きません。
国税庁の記載で確認できるのは、次のような範囲です(No.1521、令和8年4月1日現在法令等)。
- 金融商品取引法上の店頭デリバティブ取引に当たる FX(第一種金融商品取引業者などを相手方とする取引)の差金等決済による損益は、先物取引に係る雑所得等として申告分離課税になる。税率は所得税 15%、地方税 5%(復興特別所得税は別途)
- 所得税に対する復興特別所得税(令和8年分までは基準所得税額の 2.1%)は、令和9年(2027年)1月1日以後に生ずる所得から 1.1% に引き下げられ、あわせて防衛特別所得税が課される旨が同ページに記載されている
- 差損は、ほかの先物取引に係る雑所得等とは通算できるが、給与などの所得とは通算できない(No.1522)
- 通算しきれない損失は、一定の要件のもとで、翌年以後 3 年間繰り越せる(No.1523)
税率はその年の最新の情報で確認してください。申告の流れや損失の繰越の手順は、FXの税金と確定申告の記事で解説しています。
両建てが自分の税にどう影響するかは、個別の事情によって変わります。判断する前に、国税庁、税務署、税理士に確認してください。
両建ての解消が難しい理由|片方を決済した後の注意点

両建てでいちばん難しいのは、実は「建てる」ことではなく「終わらせる」ことです。損益を止めただけでは、問題が解決したわけではないからです。
片方だけ決済すると、残りが「片建て」に戻る
両建ての片方を決済すると、残ったほうの建玉が、再び単独のポジションになります。先ほどの仮の例で、買いだけを決済すれば、売りだけが残り、レートが上がると損失が広がります。売りだけを決済すれば、買いだけが残り、レートが下がるとまた損失が広がります。
どちらを先に外すのが正しいかは、その後の相場次第で、事前には分かりません。外したあとの相場が逆に動けば、片方を決済して確定した損益に加えて、残りの建玉の含み損も増えてしまいます。正解は示せませんが、外す理由と、外した後に想定する値動きを事前に決めておくことが判断の材料になります。
決められないまま持つと、コストが積み上がる
外すタイミングを決められずに両建てのまま持ち続けると、前の節で見たように、スプレッドやスワップの差額コストが積み上がります。
含み損は動かないのにコストだけが増えるため、判断を先延ばしにするほど状況は悪くなり、いわゆる「塩漬け」になりやすくなります。
建玉を指定して決済できるか、自動で順番に決済されるかは、会社のルールによって異なることがあります。約款で決済の仕組みを確認しておきましょう。
損切りと両建てを比べるときの考え方
損失が出ているときの選択肢は、大きく分けて 2 つあります。
- 損失を確定する(損切り)。損失は確定しますが、それ以上の拡大は止まり、証拠金は別の判断に使える
- 両建てにして先送りする。損益の変動は止まりますが、損失は確定せず、コストがかかり、いつか外す判断が必要になる
どちらが正しいかは、資金の余裕や相場の見通し、取引のルールで変わります。ただ、両建ては「損切りの代わり」にはなりません。損切りの注文の出し方は、FX注文方法の基本の記事をご覧ください。
両建てを使う前に確認すること|約款・取引ルールのチェックリスト

ここまで見たとおり、両建ての扱いは会社ごとに異なり、認めていない会社や制限を設けている会社もあります。両建ては判断の材料が増える手法なので、初心者の方は、仕組みとコストを理解してから検討するのが安全です。使う前に、自分の口座の約款や取引ルール、取引説明書で次の項目を確認しましょう。
約款・取引ルールで確認する 7 項目
- 両建てができるか(会社によって扱いが異なるため、約款で確認します)
- 必要証拠金の計算方式(大きいほうだけか、合算か)
- スプレッドとスワップの扱い(受け取りと支払いの差、通貨ペアごとの違い)
- 決済のルール(建玉の指定ができるか、古い建玉から決済されるか)
- ロスカットの判定単位と水準(顧客単位か、通貨ペア単位か)
- 相場急変時の取扱い(スプレッドの拡大、注文が通らない場合の説明)
- 手数料(取引手数料やその他の費用の有無)
確認する場所は、会社のウェブサイトの規程ページや取引説明書(契約締結前交付書面)です。読んでも分からないときは、会社のサポートに問い合わせ、規程の文言で確認してください。
登録業者かどうかの確認先
日本居住者を相手に金融商品の取引を行う会社は、海外に所在する会社であっても、原則として金融商品取引法上の登録が必要と、関東財務局の警告ページで説明されています(関東財務局のページ、令和8年7月22日付)。FX の勧誘はその典型例として挙げられています。
登録の有無は、金融庁の免許・許可・登録等を受けている事業者一覧(金融商品取引業者)で確認できます。また、無登録で営業して警告を受けた者の名称は、金融庁が公表しています(無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について、2026年10月23日更新)。ただし、リストに載っていなくても、無登録で営業している者がいる可能性があると、同ページに明記されています。
注意したいのは、登録されていることは、取引の安全や会社の財務の健全性を示すものではない点です。登録の有無に加えて、取引条件や説明書の内容も自分で確かめましょう。
不安なときは、金融サービス利用者相談室などに相談できます。業者が破綻した場合の資金の扱いについては、FXの信託保全の記事も参考になります。
まとめ|使う前に約款で 3 点を確認しましょう
FX の両建ては、損益の変動を止められますが、すでにある含み損は消えず、スプレッドやスワップのコストが加わります。証拠金やロスカットの扱いは会社ごとに違い、解消のタイミングを決める判断も残ります。万能の損失回避策ではない、というのがこの記事の結論です。
使うかどうかを考える前に、口座の約款・取引ルールで、次の 3 点を確認してください。
- 両建てが認められているか
- 必要証拠金の計算方式(大きいほうだけか、合算か)
- 両建て時のスワップの扱い
この記事の数値例はすべて仮であり、利益や損失の回避を保証するものではありません。投資の判断は、ご自身の責任で行ってください。税については、国税庁や税務署、税理士に確認しましょう。

